女性は何歳まで産めるの?体外受精の妊娠率は50ヵ国中45位の日本

日本では、今や30代で初めて出産する人が母親の平均像になりました。

厚生労働省から発表される人口動態統計によると、女性が第一子を出産する平均年齢は2011年に30,1歳となって、初めて30代に。そして全国で最も高い東京都では、31,6歳になっています。

第一子の出産年齢は今や30,1歳

30代、40代で出産する、というだけのことなら、避妊のなかった時代には今より遥かにたくさんありました。ただ、それは、若い頃から、ずっと産み続けてきた女性の話です。

今のように30代、40代までひとりも産まないことが普通になったのは、おそらく人類史上初めての事態でしょう。

日本では、結婚退職や専業主婦の割合がピークに達し、団塊の世代が第二次ベビーブームを形成していった高度経済成長時代には、ほとんどの女性が20代で2人出産して産み終えました。しかしベビーブームが終わったとたん、この画一的な出産スタイルは突然と消えてなくなり、女性の人生は多様化していきます。

日本で、ひとりの女性が一生に出産する子どもの数を表す合計特殊出生率が2,0を切ったのもこの頃で、高度経済成長時代の幕を引いたオイルショックの直後に当たる1975年でした。

これは、「少子化」という言葉ができる1,57ショックの14年も前です。しかし、合計特殊出生率が明らかに落ちてきたのに、国は何も手を打ちませんでした。

今までのように若い時には産まなくても、やがてもう少し高い年齢で産むだろうから心配はない、と判断されたのです。

人々が20代で産み始めるのが当たり前だった当時、おそらく人々はよく知らなかったのでしょう。1度も産まないで年齢を重ねていくと、女性の生殖機能は意外なほど早く弱くなってしまうということを。

そうして子どもが欲しいのに持てない夫婦、本当は何人かの子どもが欲しかったのにひとりっ子になる家族がどうしても増えてしまうという生物学的現象に、当時の官僚たちは思い至らなかったのかもしれません。

大奥では30歳は「おしとね下がり」

日本の初産年齢は1970年代に上昇を始め、すでに40年近くも毎年上がり続けています。しかも当初は10年で1歳上がる程度のペースでしたが、今世紀に入ると加速し、この10年ほどは、もう5年で1歳上がってしまうという異常なほどの急増ぶりを見せています。

『千代田之大奥』神田祭礼上覧

参考:東京とりっぷ

数少ない女性の不妊治療専門医として、卵子の老化についての啓蒙活動をしてきた詠田由美院長(IYF詠田クリニック福岡県福岡市)によると、30歳という年齢は、江戸の大奥では産む性としての役割を終える節目だったそうです。

「おしとね下がり」といって、将軍に寵愛された女性は、30歳になると夜のお相手を引退しました。今のように産科医療の恩恵は受けられない時代、大奥では、そうすることで大事な女性が高齢出産の危険にさらされないようにしたのです。

「女性の年齢が高くなると妊娠しにくくなってくることも、おしとね下がりと同じ」と詠田医師は言います。「もう妊娠しないですむように、年齢が高くなった女性は守られているんです。その年齢が、現在では初産年齢なんですよ」

かつての「マルコー」が日常化している

昭和になっても、1980年代までは、30歳は女性の生殖能力の区切りと考えられ、「マルコー」と呼ばれていました。

30歳以上で初めて出産する人は、産院で、カルテに「高」という字のスタンプを押されていたからです。中には、母子手帳を発行する時に「マルコー」を表紙に押してよこす自治体もあったようです

マルコーの由来は、日本産科婦人科学会の用語「高年初産婦」にありました。同学会は、今、35歳以上で初めての出産をする人を「高年初産婦」と定義し、注意指標としています。

30歳以上とされた改訂は1992年のこと

海外では35歳を境界線とする考えが主流になったため、全国の大学教授に対してアンケート調査がおこなわれた結果、学会の定義は5歳引き上げられました。

学会の広報誌によると、医学が発達して高年初産の安全性が向上し、今の医療レベルを考慮すると「妊婦にいたずらな不安を与える」という意見があったようです。

そしてマルコーのスタンプも、「差別的だ」と言われる時代になり自然に消えていきました。

そして今、当時のマルコーは全国の平均値になりました。35歳以上の出産も、経産婦を入れると全国では4人に1人になっています。東京都23区では3人に1人と、半数に迫る人数が35歳以上です。

都心部ではもう、ほとんどの人は、40代でなければ、高齢出産だと感じません。

ある都心の病院では、廊下で妊婦さんたちが「35歳から高齢出産と言われるなんて、おかしい」「現代では40歳からにすべきよね」と話していました。

でも、それはおそらくあり得ないことです。

遅く出産する人が世界中の先進国で増えて、その実態がますます詳しくわかってきていますが、女性の生殖能力が30代半ばから変化してくることは、すでに疑う余地のない事実だからです。

確かに、30歳では、まだ加齢の影響は小さいのですが、30代も半ばになると20代とは明らかに様子が違ってきます。

その筆頭が、卵子の細胞質が古くなり、分裂がうまくできなくなっていくという問題です。分裂がうまくいかなければ、染色体(遺伝子が折りたたまれたもの)の本数に間違いが起き、「不妊」「流産」「染色体異常」といった問題が起きる確率が増加します。

これが、不妊治療の専門医が盛んに警告してきて、最近では「NHKスペシャル」など大型報道番組も作られ、ようやく世間の注目を引くに至った「卵子の老化」です。

最後の妊娠チャンスは「閉経の10年前」

人は、何歳まで妊娠できるのでしょうか

「閉経までは産める」と思っている人が多いようですが、それは基本的にあり得ません。専門家の間では一般的に、女性が出産できる最後のチャンスは「閉経の10年くらい前」と言われています。閉経年齢は、日本女性を対象にした最近の調査によると、平均が50 歳。

高齢出産(こうれいしゅっさん)とは、統計上または医学上、女性が35歳以上で子どもを出産することである。 日本産科婦人科学会によると高齢出産とは、35歳以上の初産婦(高齢出産(高年初産))と定義されている。
高齢出産 – Wikipedia

そして45歳から56歳の範囲内に、8割の人が入ると言われています。それから10年を引いてみると、一般的には40歳くらいまでは産める人が多いということになりますが、早い人は30代後半でも安心できません。

ただ、遅くまで産める人は40代中頃でも出産できるという風に大きな個人差があります。

これは、体外受精の現場でも同様です。妊娠できない女性が増えてくるのは30代後半ですが、それでは出産できた最高齢の女性は何歳だったかというと、どのクリニックでも大体46歳、47歳くらいまで妊娠例があります。

妊娠力は時間をかけて少しずつ減少していきます

「妊娠までの月数がかかる」「妊娠しても流産しやすい」といった、産めるか産めないかよくわからないあいまいな時期を経て、少しずつ妊娠しなくなっていきます。

脳下垂体からの女性ホルモンの分泌は確かに閉経まで続き、子宮内膜は増殖して、やがてはがれ落ちて「月経」が起きます。ですから、見かけ上は生殖可能な状態が続いているかのように見えます。

しかし、詳しくは後述しますが、30代後半になると、卵巣の中では、卵子の老化がどんどん進行しています。40代になると、子どもになる力のある卵子はほとんどないか、あってもわずかになってしまいます。

女性の妊娠力が長持ちするかどうかは、持って生まれた資質、性生活の頻度、それまでの出産回数、喫煙、疾患、そして精子の状態などいくつもの要素に左右されます。

でも専門家たちが異口同音に言うのは、妊娠力とは、何といっても一若さ」だということです。食生活や規則正しい生活は一般的な健康のためにはまぎれもなく大切なことですが、そうした生活上の注意が妊娠力にどう影響するかはまだ明らかではありません。

体外受精でも卵子の老化は救えない

卵子が老化することにより妊娠しにくくなっても、体外受精に踏み切ればよい、と思っている人は多いのですが、果たしてそれは正しいのでしょうか。

体外受精は決して卵子を若返らせる技術ではありません。体外受精では、卵巣から卵子を採ってきてシャーレの中で精子をふりかけることにより、確実に卵子と精子が出会うことができます。

ですから、もし、それができないために子どもを授かっていない夫婦には、抜群の効果があります。

精子と卵子が出会うということは一見簡単なようですが、実は意外と複雑なプロセスです。卵子は、排卵によって卵巣から飛び出すと、手のような形をしている卵管采にキャッチされ、掃き込まれるようにして卵管に入ります。

そして、卵管の入日付近にある「卵管膨大部」という場所で精子と出会います。この時、婦人科疾患や感染症などにより癒着が起きて卵管が詰まっていると、道がふさがれてしまい、卵子は精子と出会うことができません。

卵管来の動きが悪く、排卵されてきた卵子をうまくキャッチできずに不妊になっている女性もいます。

体外受精は、人々がまだ早婚だった1970年代に、卵管の詰まりに悩む人々を救うために開発されました。体外受精による出産の第一号は1978年に生まれたルイーズ・ブラウンさんですが、ルイーズさんのお母さんは卵管障害のために不妊になっていました。

体外受精の開発者たちは、この技術が将来、卵子の老化に悩む人たちの頼みの綱になろうとは想像していなかったかもしれません。

精子と卵子の出会いは、精子の力にも依存しています

射精された精液中には通常1億個ほどの精子があるのですが、ほとんどの精子は道半ばで力尽きてしまい、卵管膨大部まで到達できるものはわずか数十個、もしくは数百個にすぎないと言われています。

しかし、精子を作る機能が弱い男性では、はじめから精子の数が少なかったり、泳ぐ力が弱かったりするので、この厳しい耐久レースではたやすく全滅になってしまうのです。

この問題で妊娠しない夫婦は、体外受精の際、卵子に精子を注入する「顕微授精」をおこなうと劇的な効果が期待でき、たった1個の精子しか得られないケースでも妊娠が可能です。

こうした問題はなく、単に年齢が高いだけの夫婦が体外受精をおこなった場合でも、自然にしているよりは妊娠率が少し上がります。検査ではわからない事情で卵子と精子が出会えていない人はたくさんいるし、ホルモン剤を使うと卵子の成長を少し助けることができるからです。

精子と卵子が出会っただけでは、妊娠は成立しません

最終的には、その卵子と精子自身の質、つまり生命の力が問われざるを得ず、そこに体外受精の限界があります。精子と出会った卵子が受精できるかは精子が卵子の殻を破る力に大きく左右されますが、ひとたび精子が卵子に入り、核融合が起きたあとは、卵子の生命力にかかっています。

出産に至るだけの力がない卵子では、受精で起きるべき現象が起きなかったり、受精してしばらくすると細胞分裂が止まったりしてしまいます。

実は、人の卵子は、若い人の卵巣にある卵子も含めて、ほとんどがそうした生まれることができない卵子なのです。卵巣の中では、若い人なら毎月1000個ほどの小さな卵子が育ち始めますが、排卵できるのは1個だけであとは全部消えてしまいます。

そしてその1個でさえ、運良く受精できたとしてもすべてが胎児にまで成長できるわけではありませんし、妊娠初期に流産してしまうこともあります。

受精卵の分割が順調に進んで出産にいたるのは、ほんのひとにぎりの特別な強さを持った卵子だけ。その選りすぐりの卵子が登場する頻度が、年齢と共に下がってきます。

日本の体外受精の妊娠率は50ヵ国中45位

体外受精で出産できる可能性は、日本産科婦人科学会が公開している全国データによると、32歳から継続的に下がり始め、37歳から低下の速度が加速します。

31歳までは1回あたり2割程度の出産率を保っていますが、37歳では14,2%、40歳では7,7%と低下していき、その後は急速に減って45歳では0,6%となります。

32歳、37歳という変わり目の年齢を知って、思い出すことがないでしょうか。そう、これは、昔から身体の変わり目とされてきた「女性の厄年」に近いのです。数え年で、32歳は前厄、37歳は本厄。古くからの節目が、体外受精という最先端の生殖補助医療の統計に重なるのは興味深いことです。

30代後半から、体外受精後の流産も目立って増えてきます。流産は若い時は10人に1人くらいですが、42歳くらいになると、なんと半分くらいの人が流産をしてしまいます。

高齢出産40代の流産は何ともつらい体験

こうした厳しい状況にもかかわらず、日本の不妊治療専門クリニックではどこも40代女性の受診が急増しており、初診全体の4,5割を40代が占めるというところさえあります。

日本では、40代の体外受精が欧米に較べて際だって多くなっているのです。不妊治療専門医は「2006年にプロレスラーのジャガー横田さんが45歳で出産したことが、40代女性を強く刺激した。

あれ以来、40代の初診が急増した」と口を揃えます。前述のように、45歳の体外受精で出産できる可能性は1回当たりわずか0,6%(日本産科婦人科学会。2010年)。医師もそう説明するのですが、それでも「望みがゼロというわけではない」というところに希望をつないで1回何十万円もかかる治療を希望する人があとを絶たないというのです。

欧米で体外受精を受ける患者の年齢が若いのは、卵子の老化についての知識があり、治療費の公費補助に年齢制限があるからだと考えられています。40代の体外受精が日本の半数しかおこなわれていないフランスでは、体外受精が自己負担なしで受けられますが、対象者の女性は42歳まで、と定められています。

まとめ

スウェーデンはこれよりずっと早くて、38歳。ほとんどの夫婦は公費補助の期限に合わせて不妊治療をプランするため、おのずと患者年齢が若くなり、その分、妊娠率が高くなります。

産婦人科の専門誌(『周産期医学』2012年8月号)によると、日本の体外受精の妊娠率は50ヵ国中45位だった、とあります。日本は、不妊治療を実施する施設数も体外受精の実施数も世界一の「不妊治療大国」です。

2010年の体外受精実施数は24万2161件で、これはなんと米国の約1,6倍にあたりますが、治療による出生数は米国の2分の1にも届きません。つまり、治療が結果に結びついていないのが日本の現状なのです。

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