女性の外見は若くなっても卵子の老化は止まらない

自分は、もしかしたら、産めないかもしれない」

そんな不安とあせりを感じている女性がとても増えています。

仕事が一人前になり、恋愛もして、結婚もする。今の日本ではこれをクリアしなければ、産めないと考えられていますが、身体は、いつまでそれを待ってくれるでしようか。

今や、初めて出産する人の平均年齢は30,1歳となりました。女性は、自然妊娠では20代後半から、体外受精では30代前半から妊娠率が低下し、35歳になると出産のリスクも高まって高齢出産と呼ばれるようになります。しかし今日の日本では、この高齢出産で生まれる子の割合が全国では4人に1人、東京都では実に3人に1人になりました。

子どもがいる人生か、それとも、いない人生になるのか。まさにその岐路に立ち、自分に残された産める時間を数えている人が、今の日本にはたくさんいるのです。

不妊治療を受ける夫婦は6組に1組

何が変わったといって、まず、妊娠するまでに苦労する方が急増しました。何らかの形で不妊の医療を受けたことがある夫婦は6組に1組。全国で誕生する赤ちゃんのうち、36人に1人は体外受精で妊娠した子です。

妊娠したあとも、高齢出産では流産、赤ちゃんの染色体異常をはじめ、帝王切開、妊娠高血圧症候群、糖尿病などさまざまな心配がつきまといます。日本産科婦人科学会は、35歳以上で初めて出産する人を「高年初産婦」と定義して注意を促してきました。

それでも、その年齢でまだ産んでいない人が子どもが欲しいなら、そこでがんばるしかありません。野田聖子議員は不妊治療を試みても自分の卵子では妊娠できず、米国でドナーから卵子の提供を受けて妊娠し、50歳で出産。それは、お子さんに重篤な疾患があった上にご自身も子宮を摘出するという壮絶な出産であり、産める年齢を超えて産もうとすることに対する社会的批判が巻き起こりました。

女性の妊娠する力「妊孕性(ニンヨウセイ)」とは

野田議員は「卵子が老化する」という事実を知らなかったから出産を先延ばしにしていた、と述懐しています。身体の中で卵子だけが老化しないなどと考える人はいないと思いますが、女性の妊娠する力「妊孕性(ニンヨウセイ)」が、意外に若い頃から下がり始める事実は、まだ十分には知られていません。

現代の女性は30代後半、40代でも外見が若々しく、一昔前とはファッションも行動もまったく違います。「サザエさん」の磯野家の主婦であるフネさんは、現代の感覚ではおばあさんに見えますが、原作者の長谷川町子さんは、フネさんを48歳と設定しました。ワカメちゃんはフネさんが39歳の時に出産した末っ子だと考えられます。

20代から家族の世話に明け暮れてきた昭和の40代と、自ら稼ぎ、そのお金でブランドファッションやエステにも投資できる現代のアラフォー女性では、セルフイメージが大きく違ってもしかたがないことなのかもしれません。最近では、「美魔女」と称し、40代、50代の女性を「20代前半ににしか見えない」などとTVや雑誌がもてはやしています。

しかし、外見が変わっても、人の卵巣は、何も変わりません。現実に、女性の出産できる限界年齢は延びていません。それどころか、古い統計と現代を見較べてみると、昔の女性の方が生殖機能は強くて遅くまで出産できたようです。

高齢出産のリスク。

野田さんほどがんばる人は少数であるものの、野田さんのように自分の妊娠力を過信していた人、結婚が遅かった人が不妊治療クリニックに助けを求める光景はもはや都市生活の一部となってしまいました。

卵子の老化についての誤解

最近は卵子の老化についての報道も増えて妊娠年齢についての知識も広まってきましたが、それに伴って、今度は、息子に「結婚相手は34歳までの人にしなさい」と言う親が出てくるといった奇妙な状況も起きているようです。出産年齢の上昇は、もはや子どもが欲しい女性だけの問題ではなくなり、ひとつの社会不安に発展しました。

卵子の老化については誤解、曲解がたくさんあります

この時代に卵子の老化についての知識が不可欠であることは論をまちませんが、知識を持ち、早く親になりたいといくら思っても、男女の縁やコウノトリの訪れは自分の意のままに操れるものでもないからです。

「若い時に産みましょう」という勧めは、同じ健康知識でも、ある年齢の人に検診や予防注射をしましょう、と勧めるのとはそこが違います。

また、女性の社会的役割が大きく変わった今、出産年齢がある程度上昇することは先進国に共通の現象で、もはや避けられません。北欧やフランスなど少子化を挽回した国々でも、出産の平均年齢は日本とそう大きくは変わりません。

ただ、時代に敏感な対策が多数とられているので、高齢出産層の出生率はとても高くなっています。「高齢出産はだめだ、問題だ」と言ってばかりいるのは、いささか旧来の母親イメージに縛られすぎているネガティブ思考なのではないでしょうか。日本もそろそろ多様な母親像に対して心を開き、「高齢出産でも安心して産める国」へと脱皮すべき潮時を迎えているかもしれません。

そもそも、世間で言われている高齢出産のィメージは本当なのでしょうか?出産はもともとリスクがつきまとうものなのに、高齢出産ばかりが一律に危険グループとして扱われ、リスクを強調されている現状には、情報のゆがみを感じます。20代の人でにも命がけの出産やお子さんの先天異常はたくさんあり、保育器の並ぶ新生児集中治療室(NICU)には、若いご両親がたくさん面会に来ています。

若い人にも、もっと妊娠、出産のリスクを知って欲しいし、高齢出産の人には年齢が高いからといって自尊心を失って欲しくありません。年齢が高くなっても、若い人よりゆっくりやればよいだけのこともたくさんありますし、卵子の老化に対抗する最新の医療技術のあれやこれやに、すぐ飛びつかなければならないということもありません。

高齢出産の現実と専門家の本音

不妊治療や高齢出産を数多く扱う都市部の病院やクリニックを訪ね、高齢妊娠の現実を誰よりも知るプロフェッショナルたちから、思い込みや偏見ではない、高齢出産の本当の姿や、それに日々向き合って感じている本音を聞いていました。

国内外の高齢出産に関する文献にも当たり、高齢出産について従来考えられていたことが少しずつ変化してきていることも知りました。実際に遅く産んだ方には、それぞれの妊娠ストーリーや、今の子育ての様子を話してもらいました。これらの時間を通じて私は、高齢出産はどんなお産かといえば、それは産む人の数だけあるのだと痛感しました。

高齢出産は決して医学上の話には終わらない人生の物語でもあります。いつどのように妊娠すべきかという問いに、正解はないと思っています。でも、それを考えるための材料としてお役に立てれば幸いです。

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